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☆研究学園校ブログ☆

[4000週間] 生産性の罠

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[4000週間] 生産性の罠

 タイトルに記した4000週間とは、人間が80歳まで生きた時の期間を表しています。120歳まで生きたとして6400週間です。今の自分の年齢とこの期間を見比べると、意外に残りの時間が限られていることに気づきます。「限りある時間の使い方」(オリバー・バークマン著)は、よくある生産性アップや効率化、デジタルタスキングの盲点を指摘し、新しい角度からの時間術を提案しています。

 現代を生きる私たちの社会では、より発展すること、変革すること、前進することが当然のようになっています。ほめる教育指導...、360度の人事評価...、コーチング...、セラピー...といった制度や技術も現代になって隆盛しています。さらにはライフコーチ、ライフスタイルコンサルタント、セラピストとキリがありません。コーチングにしろセミナーにしろ、その種類だけ生き方が多様であっていいということの表れではないでしょうか。誰にも叩かれない正しい生き方、働き方なんてないんだと気づかされます。本作品では、内面にフォーカスし過ぎる現代人に警鐘を鳴らし、まずは社会とのつながりの中の自分−家族の中の自分、友人にとっての自分、コミュニティの中での自分−にまず目を向けてみよと説きます。時間をコスパ化するのではなく、有限の時間をまず受け入れるのです。有意義に時間を使えたと感じる時間は、コスパで捻出したわずかな時間ではなく、友人や家族のために使った時間、自分の好きなことに費やした時間であると感じるかもしれません。

 
本作品の後半では、何もしない本当の余暇と、平凡な趣味を持つことを勧めています。初めから短いと決まっている人生だからこそ、慌ただしく過ごす週末ではなく、ただ休むための余暇を味わう。将来のためになるからではなく、ただ好きというだけで行う趣味を持つ。その時間はそれしかしないと決めることで諦めとゆとりが生まれ、忙しさの悪循環を断ち切ることができるのです。平成までのひたすら効率を追求する時間術・ビジネススキル系の本とは違った視点を取り入れるのにオススメの一冊です。
2022年08月27日 17:06

[ミッドナイトライブラリー] 人生をやり直してみたら...

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[ミッドナイトライブラリー] 人生をやり直してみたら...

 生死のはざまに意識の中に現れた真夜中の図書館。ここには自分の人生に関するあらゆる過去の記録と、選ばなかった人生のあらゆる選択肢が収蔵されています。恋人とも別れ、仕事もクビになった主人公ノーラ。自らの人生を断ち切ろうとしたその時、ノーラの中に真夜中の図書館が姿を現します。今まで選ばなかった人生のあらゆる可能性を試してみた結果、ノーラがたどり着いた結論とは。今回は海外小説から「ミッドナイト・ライブラリー」(マット・ヘイグ著)をご紹介します。

 真夜中の図書館でノーラが最初に目にしたのは分厚い「後悔の書」。今までの人生の中の様々な後悔、行動しなかったことが書かれています。ノーラはこれらの中から、行動する選択肢、子どもの頃望んでいた人生のルートの選択肢をいくつか追体験してみます。選ばなかった人生の追体験をする中で、ごく小さな決定や行動が周囲の人々や自分の環境に大きな変化を及ぼすということに気づきます。父親の薦めるスポーツでオリンピックまで登り詰めるも、家族関係や精神状態は理想とはかけ離れていたり。趣味だったバンド活動を続けてメジャーデビューまで果たすも、現実の自分が思っていた幸福はつかめていなかったり。選びうる成功、好きな自分を追体験してみても納得できる人生が見つかりません。そして、心から納得しない限り、真夜中の図書館から抜け出すこともできません。理想の人生を探すのに疲れ果てたノーラも、図書館からいよいよ決断を迫られます。成功した自分、恵まれた家庭を築いた自分、平凡な自分...ノーラはついに意を決して図書館を去ることに。

 どんな人でも戻ってみたい人生の瞬間、決断の瞬間、進路、仕事があると思います。あちらを選んでいればきっと成功していた、あの会社で働いていたら今ごろこうなっていたなど、選択し直したい人生は誰にでもあるはずです。過去の選択を選び直す権利を与えられた主人公ノーラは、私たちのそんな希望を身をもって体験してくれます。そして、どう感じ、どう周りの環境が変化するのかも読者に示してくれます。文章全体を通して伝わってくるのは、完璧な人生は用意されていない、全員から素敵だと認められる人生はどこを探しても見つからないということです。また、人生はトレードオフということです。理想とする自己実現と夢を実現した結果、家族は切り捨てる結果となるかもしれません。理想の人間関係に囲まれた結果、都会とは離れた町で静かな暮らしを送ることになるかもしれません。400ページ超の長編小説ですが、人生の「もしも」を思い通りに体験するというわくわくする感覚は、その長さを全く感じさせません。時間の取りやすい夏休みの間におすすめの一冊です。
2022年08月11日 12:11

[ななみの海] いい大人になりたい

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[ななみの海] いい大人になりたい

 
本日は国語の入試問題への出題も多い朝比奈あすかさんの最新作「ななみの海」(双葉社)をご紹介します。朝比奈さんの作品は会話の部分と情景描写の部分とのバランスが絶妙で、よどみなく読み進められる点が特徴です。登場人物の心情の動きが読み取りやすいことが、入試問題として取り上げられやすい要因の一つではないかと思います。

 主人公の岡部ななみは児童養護施設に中学1年生のころから暮らす高校2年生。部活動や学校生活も充実させながら、「施設の子」だから馬鹿にされちゃいけないという強い思いから医学部を目指すことになるのですが...。ななみは施設内でも学校でも問題を起こすことなく、バランスのよい人間関係を維持しています。自分の感情をコントロールし、大人の対応を早くから身につけています。しかし、表の人間関係を上手く回すことができていても、自分の心の言い知れぬ不安や、施設で暮らすことになったことへの不満は抑え切れません。ときに施設の子どもたちやそこで働く職員を突き離した目でとらえたり、どこまでいっても他人であることによる距離感の取り方に、ななみの気持ちは揺れ動きます。大人の事情で惨めな思いや、かわいそうな子どもを生み出したくない。自分は絶対にそうならない。そうしてもがきながらも、ななみ自身の人間的成長が、他の施設の子どもたちや友人たちの変化と共に語り進められていきます。

 10代の多感な時期の心情や行動の深層を実によく表した作品です。児童養護施設という環境にいる自分は、周りと同じではないと鬱屈した気持ちに何度もななみは陥ります。しかし、ななみから見たら普通の「家の子」の友人たちにもそれぞれ隠したい家庭事情、家族関係があるのだと徐々に気付いていきます。迷ったり葛藤しつつも努力して大人への一歩を踏み出すななみの成長は、今を生きる中高生にオススメの内容です。
2022年07月20日 14:03

[好奇心] 子どもは40000回質問する

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[好奇心] 子どもは40000回質問する

 出版印刷物やインターネットの普及で、情報や知識は誰でもすぐに手に入るようになりました。世界中のどこにいても、ウクライナ情勢やお気に入りのアーティストの最新情報を入手することができます。情報格差は縮まっていると言えそうです。一方で、何でも分かる環境にいるせいで、逆に自ら物事に関心を寄せたり調べようとしない好奇心格差と呼ばれる状況がじわじわと広がっています。今回ご紹介する「子どもは40000回質問する」(イアン・レズリー著)は、現代人が好奇心を意図的に選択する生き方を提案しています。

 本作では好奇心をさらに細かく分類しています。子どものころから見られる何でも知りたい、触りたいといった原初的な好奇心を「拡散的好奇心」と呼んでいます。この好奇心は表面的な性質を持ち、目新しいものであれば何でも魅力的に見え、次々と興味の対象を変えやすいという特徴を持ちます。大人にとってのニュースサイトザッピングやSNSのフィードチェックもこの拡散的好奇心に該当します。次々と興味の対象を切り替えてしまうという性質上、拡散的好奇心だけでは慌ただしい認知作業が繰り返されるだけで、情報の練り上げや知識の深い結合には至りません。

 生まれながれにして備えている拡散的好奇心はときに注意散漫の様に映ります。しかし一方で、この拡散的好奇心が正しい方向に突き進むと、より深い知識と理解を求める「知的好奇心」へと成長していきます。研究者や専門職を極める者たちが備えている好奇心はここに分類されます。子どもに当てはめて考えてみると、幼児期の子どもの質問は「何」「どこ」といった拡散的好奇心よりの質問から、「どうして」「なぜ」という知的好奇心よりの質問へと成長していきます。およそ2歳~5歳の間にこのような理由、説明に関する質問を子どもは約40000回問いかけると言われています。個人差はありますが、幼児期の質問や問いかけを無視したり的外れな回答をしていると、子どもは質問しないように負の学習をしてしまいます。興味のフックとなる知識や情報の断片を適切なタイミングで提供できなければ、拡散的好奇心を知的好奇心へ発展させることは難しいでしょう。

 3つ目の分類は「共感的好奇心」と呼ばれ、人がどう感じているか知りたい、自分をどう思っているか把握したいといった感情にまつわる好奇心です。この好奇心も人間ゆえの高度な認知能力で、ゴシップ雑誌や交流系のSNSが盛んな理由もこの共感的好奇心から説明できます。拡散的好奇心と同様、通常は人間の成長と共に自然に身に付いてくるものですが、成長過程において感情面でのフィードバックや他者の心情の観察をする機会が極端に少ないと共感的好奇心が乏しいまま成長してしまいます。本作品では、絵本の読み聞かせ、物語系の読書経験が推奨されています。

 ICTが発達した現代では、好奇心を持った瞬間にはすぐに情報検索が行えます。関心と回答への反応スピードが速いことは素晴らしいですが、人間の脳にとっては全てが吉と出るわけではなさそうです。知識の習得や学習においては、そこにたどり着く際に適度な摩擦や不確実性がある方が理解と想像を深めます。ときには簡単に答えが見つからない課題に取り組むことが、興味のフックや探究心を育んでくれます。これは「望ましい困難」と呼ばれ、少し苦労して学んだ方が深く理解し、忘れないという認知科学上の理論です。タブレット学習やAIを使ったスマートな学習を活用しつつも、義務教育の段階においては手書きや紙の辞書を引いてみる、自分で試行錯誤してみるといった取り組みが大切なのかもしれません。
 
2022年06月25日 12:38

[依存症対策] irresistible

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[依存症対策] irresistible

 塾の面談時の悩みで多いのが、子どもがスマホばかり見ている、ゲームばかりしている、勉強しないといった悩みです。ゲームの媒体や機種は時代ごとに変わりこそするものの、こうした悩みは毎年必ずあります。むしろ、ある方が普通と言ってもいいぐらいです。これらの悩みを解消するために塾に通わせる、自習室に来させるという動きにつながるのもまた事実なので、塾の果たす場所的役割の一つであると思います。本作品「僕らはそれに抵抗できない」は行動経済学者による依存症の仕組みとその脱却方法を探っています。

 依存症が病気なのか、それとも社会現象の一つなのかは専門家の間でも判断が分かれるそうです。治療法に関しても、投薬治療のほか、薬を使用しないカウンセリング、置き換え療法、行動療法、合宿プログラムなどアプローチ方法は何種類かあります。本作品で紹介される事例では、重度のゲーム依存や薬物依存が取り上げられていますが、行動経済学的、心理学的アプローチによる効果的な脱却方法が記されています。例えば、スマホやタブレットを視聴しすぎてしまうという問題に対しては、2つのアプローチ方法が紹介されています。一つは、「行動アーキテクチャー」という方法で、生活環境や生活場面から対象物を物理的に遠ざけるという手法です。人間の脳はとても優秀で、スマホやタブレットが視界に入る場所にあるだけで、そちらに脳のメモリが割かれていきます。そして、ふと集中力が途切れた瞬間には手に取っているという行動を繰り返してしまいます。ですので、リビングや子どものデスクの上からはスマホやタブレットを視界外に置くことが有効です。そして、スマホやタブレットをいちいち取り出す、探すといった障壁を意図的に設けることも有効です。
 もう一つのアプローチは「習慣の置き換え」です。人間の行動が習慣化してしまっている場合、そこには合図、行動、報酬という3つの場面があります。この内、依存してしまっている「行動」(スマホ、ゲーム)の部分を別の動作に置き換えるのです。例えば、夕食の後にいつもスマホやゲームをしているのであれば、食後が合図となっているので、食後の後にペットの散歩や宿題時間、部屋の掃除といった「行動」を組み入れます。急に置き換えることが難しければ、一部割り込ませるだけでも構いません。上手くいけば、食後はまず宿題やワークをやるものだと習慣化される可能性があります。

 いずれの方法にしても、無理やり何かを辞めさせたり、強制的な手段ではない点に着目して頂きたいと思います。依存してしまう脳や行動から働きかけなければ、人間はすぐに抜け道を探したり別の手段に訴えるようになるだけです。脳の傾向を上手く活用する、生活動線から依存対象物をフェイドアウトさせるなどの手段が好ましくない習慣からの脱却方法となり得ます。
2022年06月03日 15:23

[最新脳理論] ー1000の脳理論ー

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[最新脳理論] ー1000の脳理論ー

 
脳科学に関する研究は日進月歩です。しかし、脳内の知能がどう起こっているかについてはいまだ謎なのです。今回は、大脳の中で知識・知能を司る大脳新皮質の最新理論を「脳は世界をどう見ているのか」(ジェフ・ホーキンス著)からご紹介します。300ページ超の専門的内容となりますが、その中から勉強や学習に活かせるテーマを選びました。
 まず、これまでの脳科学で明らかにされている脳の特性から復習すると、私たちの脳は可塑性が大いにあります(柔軟性があるということ)。だからこそ、何歳になっても新たな知識を学んだり、スキルを磨き上げることが可能なのです。ただ、脳がどのように物事を理解し、覚え、利用できるようになるかの枠組みがいまだに不明なのです。本作では、脳の新皮質の学習する枠組みを「1000の脳理論」という説で解き明かそうとしています。かいつまんで述べると、新皮質は五感から得た情報を「座標系」(パターン、モデル、枠組み)で認識します。目に見える物体でも、目に見えない概念や言語も全てこの座標系という独自の認識パターンに当てはめて理解します。もちろん、この認識するプロセスは無意識下で常に行われています。私たちは目新しいものやよく知らない場所をよく観察したり、体験したりしようとします。それは、まだ知らない情報に当てはめる座標系を割り当てる作業を無意識下にしている反応なのです。では、十分見慣れた情報についてはどうなるのか。当然認識スピードと反応が速くなりますし、より細部の情報を理解できる様になります。そしてこれこそが、あらゆる物事に対する唯一の学習プロセスなのです。つまり、英語や算数が苦手と言っている人は、英文法や方程式の座標系がつかめておらず、英語や算数を認識するトレーニング量と習熟が不足しているというだけなのです。

 なんだ結局勉強は学習量に比例するのかと思われるかもしれませんが、それが真実です。逆に言えば、一度大脳新皮質内で座標系が確立されれば、その分野に関する神経細胞の結び付きが強化され、それに関連した情報の伝達スピードが上がります。英文法が得意な子は長文読解も速く、算数が好きな子は計算も速いのも納得です。上記で述べた通り、この学習プロセスは勉強以外のスキル習得、スポーツ、あらゆる物事に汎用性があります。この新皮質の汎用性は現在のAI(人工知能)も持ち合わせていない人間特有の知性です。まさに人間を人間たらしめている特性の一つかもしれません。本作品で最新の脳理論を知ることができますが、それ以上に、勉強もやればやっただけ必ず向上するという根拠を得られたことが大きいです。今は勉強が苦手でも、脳がきちんと認識するまでトレーニングすることで、成績は伸ばせるんだよと伝えられそうです。
2022年05月16日 14:20

【最高の子育て】遺伝子には個性という余白がある

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【最高の子育て】遺伝子には個性という余白がある

 今回は小児科医・高橋孝雄先生の「最高の子育て」から子どもの能力に環境や遺伝子がどう影響しているのかについてご紹介したいと思います。小児科医としての数々の臨床経験から、生育上の悩み、学校の悩み、習い事の悩みに科学的に答えています。ここでは、誰もが気になる遺伝子が才能にどう関わってくるのかという点にしぼって考えていきたいと思います。

 まず、外見、運動能力、お酒に強いか弱いかといった身体的特徴に対しては、遺伝子が有意に関わってくるそうです。そのため、他の子と比較して何か苦手な事があった場合、それが運動や生体上のことでしたら無理に直そうとしても無駄に終わるケースが多いということです。苦手分野ばかり見つけるのではなく、かけっこがどうしても遅いと思っていたら、持久力は高かった。お絵描きは特に上手ではなかったが、歌のリズム感や聞き取り能力が高かったなど、そうした優勢な特性を見抜くことが大切だと高橋先生は説明されています。才能の片鱗を親が見抜けなくても、成長の過程で本人が自覚することもあれば、習い事の先生を通して伝えられることも多々あるそうで、この意味で幼少期に習い事をさせると、その子の優勢な分野が早期発見できるかもしれません。才能や能力を特徴づけるこれらの遺伝子は、良い悪いではなく「個性」として受け入れる気持ちが大切だとアドバイスされています。どの子もそれぞれ個性という名の余白があり、そこを上手く伸ばしてあげることで才能が開花するのではないでしょうか。教育には環境が大切だと言われる場合の環境も、この個性の余白に合った環境提供があって初めて最大限の効果を発揮するのであって、特性も見ない内から焦って環境を追求しなくても間に合うということです。

 つい私たちは「あの人は才能が生まれつき違う」などと思ってしまいますが、高橋先生は「極上の遺伝子も劣悪な遺伝子もない」と伝えています。どんなに優れているように見えても、全ては人間という生物の遺伝子の誤差の範囲内に収まるのです。日本人の国民性かもしれませんが、全ての領域において平均が取れる必要はないのです。大切なのは、その子の個性という余白をいかに伸ばしてあげるかです。勉強が全てでもなければ、1位が取れなければダメだというオリンピアン的価値観から少し距離を置いて目の前の子どもと向き合っていく余裕が大切です。

 
2022年02月16日 16:02

【今頑張れないやつは一生頑張れない】

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【今頑張れないやつは一生頑張れない】

 今回は高校生におすすめの作品を紹介します。予備校講師吉野敬介先生の著書です。かなり強烈なタイトルになっていますが、これも吉野先生の言葉です。古文の先生なのですが、自身も一度社会人を経て這い上がって来た経験から、とても熱いメッセージを受験生に送り続けています。YouTube等でご覧になることもできますが、見た目も授業も相当にインパクトのある先生です。他にも吉野先生の作品が出版されていますが、10年ほど前に刊行されたこの作品が一番受験生に刺さる作品だと感じています。

 タイトルのメッセージを解釈すると、今日1日を頑張れたやつは明日も頑張れる、明日頑張れたら3日頑張れるという風に、今目の前の勉強・仕事をきちんとできればその先も続けて頑張れるということです。吉野先生自身も、その日にやるべき課題、仕事を終わらせるためには徹夜してでもやり抜く意志を貫いたと振り返っています。受験業界で代々木ゼミナールが一世風靡していたころ、講師採用を経てトップ講師へと昇り詰めていく過程も見所です。他の講師が遊び歩いている間、講義の準備に徹底的に時間をかけ、どこを強調するか、どこで雑談を入れるかまで徹底的に練習したそうです。

 受験生に対するアドバイスの中で印象的だった一幕があります。「早稲田の古文では何が出ますか」という質問に対し、「早稲田の古文なんてない。お前が勉強すべきなのは古文だ」と返答したことです。もし私だったら、最近は近世の作品も出題されるから、室町時代以降の作品も演習しといた方がいいよなどとペラペラと語ってしまいそうですが、吉野先生はプロとしてもっと本質的な視点からアドバイスしています。つまり、しっかり中身のある勉強をする前からどこどこ対策と騒ぐ前に、まずその科目の実力をつけなさい、楽をするなということです。入試でどこが出るかヤマを張るのは悪いことではありませんが、それはあくまで直前期にやることです。それを入試のかなり前から出そうな文章、作品だけを探して近道をしようとすると基礎ができていない分、足元をすくわれてしまうでしょう。

 高校生向けにと紹介して来ましたが、中学生にも十分伝わる内容ではないかと思います。今の頑張りをおろそかにしないこと、勉強の本質を見誤らないことを吉野先生の強いメッセージから受け取って頂けたらと思います。
2022年02月04日 03:22

【子育て】江戸時代の子育て

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子育て】江戸時代の子育て

 今回は日本人の教養について書かれた『独学の精神』(ちくま新書)著・前田英樹から、江戸時代の教育と子育てについてご紹介します。日本で一般向けの教育書、子育て本が出回ったのは17世紀後半あたり、つまり江戸時代から既に民間向けの育児関連書籍が読まれていたことになります。同時期の世界に目を向けると、革命や植民地争奪戦争といった覇権争いばかりに注目が集まっており、政治論や外交論、戦争論といったテーマでの書籍が圧倒的に多数を占めています。学校制度や受験制度がない中での子育て本ということなので、そのテーマは主に「躾」(しつけ)に関するものが多く、武家の師範や保護者向けの内容となっています。

 江戸時代の商家向けの心得を書いた『世わたり草』には、「生まれた子どもは皆素直であるが、教えを施さなければわがままに曲がりくねるため、子どもの成長は家人が責任を持って善悪を示すべし」と書いています。また、江戸時代前期の中江藤樹は『翁問答』の中で「孝」こそが身に付けるべき最高の徳であると述べ、「孝は身分に関係なく万人が積むべき行いであり、徳と才を身につけてこそやがて身を立てることができる」と述べています。そして、そのために学問があると述べています。武家、商家、農家向けでそれぞれ主張の強弱は異なりますが、全てに一貫しているのは躾を重んじている点です。あいさつ、振る舞いの他、善行を奨励し、悪行を制す教えが強調されています。これらの教えを基に、家業を継ぐであろう男の子に対する教育は主に父親、外に嫁ぐであろう女の子の教育は母親が担っていたといいます。ここでいう教育は勉強のことではなく、躾につながる行いや生き方についての教えとなります。学問的な教えは武家の藩校、民間の寺子屋、師範の開く習い事で修めたようで、これら多層的な教育機関の存在が、江戸時代の庶民の教養が世界的に高かった事に貢献していると考えられています。

 このように、江戸時代の子育てによって教養ある庶民層を誇った日本も、幕末にかけ激動の時代に突入していきます。それでも、江戸時代からの教育の伝統は息づいていたようで、明治時代に日本を旅行したイザベラ・バードは『新訳・日本奥地紀行』の中で「日本にはうるさい子どもや聞き分けのない子どもを見ることがないし、イギリスの母親のように子どもをおだてたり脅したりして無理やり服従させるような躾を見かけない。そんな日本の子どもが大好きだ」と記しています。学校制度が普及してからも、日本人の教育のベースは江戸時代に築き上げられたものが大きく役立っていたと考えられます。良い点すべてを真似ることはできませんが、江戸の子育ての美点を現代生活に応用できるところは応用していきましょう。

 
2022年01月27日 14:32

think like a monk

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Think like a monk - 僧侶思考

 少し分厚めのハードカバーですが、ジェイ・シェティ著の「THINK LIKE A MONK」をご紹介します。本の系統としてはマインドフルネス(瞑想)系に近い内容となっていますが、一般的なマインドフルネス系の本が瞑想の方法や脳科学的な効能について多く述べているところ、本作はジェイのインドでの僧院における修行経験を基に生き方や考え方に焦点を置いた作品となっています。ビジネスマンとしてのキャリアを捨ててまで僧院で修行したジェイですが、結果的には現代世界に戻って講演・コーチング活動をして僧侶思考を広めています。その成果の一つが本作品というわけです。

 私自身マインドフルネス系統の本や動画をたくさん見て来ましたが、本作品は技術的な側面ではなく、より内面、自分の心の在り方にポイントがしぼられているように感じました。それはやはり、ジェイ自身がたくさんの煩悩を抱えた状態で僧院に入り、修行を通して得た気づきを具体的に記してくれているからだと思います。一例を取り上げると、朝の掃除です。僧院に所属して最初の頃のジェイは掃除に不満タラタラです。しかし、毎日続けていく内に、そうした不満や文句自体が心の中のがらくたであると気づきます。実際の掃除を通して、心の中も掃除をしているというわけです。これはマインドフルネス系統の本では座禅やヨガに相当する、単一動作(シングルタスク)に当たります。毎日の生活にひたすら掃除といった単純な動作の習慣を取り入れることで、頭の中の雑念を取り払うという修行です。そうして初めて、クリアになった自分の心と向き合う時間が訪れると言います。ジェイの言葉を借りれば、「埃を落とさない限り、本当の自分は見えてこない」。感情、周囲の意見、世間体、そうしたまとわり着いているものを取り払わなければ自分の本来の姿、望みが見えてこないということです。

 僧侶の思考に磨きをかけつつ、師匠や先輩僧侶らと語り合う中で、ジェイは自身が残りの人生で取るべき行動をはっきりと自覚していきます。一人ひとりが本来の生き方、魅力を発揮して生きていけるように、それを伝えるために世界に発信していきたいと自覚します。その際にジェイは、ダルマという仏教用語を用いています。ダルマとは、人間がそれぞれ持つ使命や生き方の柱といったものですが、ジェイはダルマを現代風にとらえ直しています。すなわち、自分はこれが大切・好きだという情熱、そしてそれを自ら実践できる専門的能力、そしてそれが他者や社会に役立つものであるという有用性の掛け合わせがダルマであると言います。
 
 読み終えて、学生の内からこうした考え方ができればよかったのにと少し思いましたが、ジェイ自身がそうだった様に、生き方の転機や行動には不思議なタイミングがあり、昔を後悔しても始まりません。今取り組む勉強、仕事がダルマに沿っているかを考え、そうであれば日々精一杯行う。仮にまだ分からないのであれば、心の埃を落としながら内面の声を研ぎ澄ましていく。その繰り返しです。僧侶思考をぜひお試し下さい。


 
2022年01月06日 17:43
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