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[好奇心] 子どもは40000回質問する

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[好奇心] 子どもは40000回質問する

 出版印刷物やインターネットの普及で、情報や知識は誰でもすぐに手に入るようになりました。世界中のどこにいても、ウクライナ情勢やお気に入りのアーティストの最新情報を入手することができます。情報格差は縮まっていると言えそうです。一方で、何でも分かる環境にいるせいで、逆に自ら物事に関心を寄せたり調べようとしない好奇心格差と呼ばれる状況がじわじわと広がっています。今回ご紹介する「子どもは40000回質問する」(イアン・レズリー著)は、現代人が好奇心を意図的に選択する生き方を提案しています。

 本作では好奇心をさらに細かく分類しています。子どものころから見られる何でも知りたい、触りたいといった原初的な好奇心を「拡散的好奇心」と呼んでいます。この好奇心は表面的な性質を持ち、目新しいものであれば何でも魅力的に見え、次々と興味の対象を変えやすいという特徴を持ちます。大人にとってのニュースサイトザッピングやSNSのフィードチェックもこの拡散的好奇心に該当します。次々と興味の対象を切り替えてしまうという性質上、拡散的好奇心だけでは慌ただしい認知作業が繰り返されるだけで、情報の練り上げや知識の深い結合には至りません。

 生まれながれにして備えている拡散的好奇心はときに注意散漫の様に映ります。しかし一方で、この拡散的好奇心が正しい方向に突き進むと、より深い知識と理解を求める「知的好奇心」へと成長していきます。研究者や専門職を極める者たちが備えている好奇心はここに分類されます。子どもに当てはめて考えてみると、幼児期の子どもの質問は「何」「どこ」といった拡散的好奇心よりの質問から、「どうして」「なぜ」という知的好奇心よりの質問へと成長していきます。およそ2歳~5歳の間にこのような理由、説明に関する質問を子どもは約40000回問いかけると言われています。個人差はありますが、幼児期の質問や問いかけを無視したり的外れな回答をしていると、子どもは質問しないように負の学習をしてしまいます。興味のフックとなる知識や情報の断片を適切なタイミングで提供できなければ、拡散的好奇心を知的好奇心へ発展させることは難しいでしょう。

 3つ目の分類は「共感的好奇心」と呼ばれ、人がどう感じているか知りたい、自分をどう思っているか把握したいといった感情にまつわる好奇心です。この好奇心も人間ゆえの高度な認知能力で、ゴシップ雑誌や交流系のSNSが盛んな理由もこの共感的好奇心から説明できます。拡散的好奇心と同様、通常は人間の成長と共に自然に身に付いてくるものですが、成長過程において感情面でのフィードバックや他者の心情の観察をする機会が極端に少ないと共感的好奇心が乏しいまま成長してしまいます。本作品では、絵本の読み聞かせ、物語系の読書経験が推奨されています。

 ICTが発達した現代では、好奇心を持った瞬間にはすぐに情報検索が行えます。関心と回答への反応スピードが速いことは素晴らしいですが、人間の脳にとっては全てが吉と出るわけではなさそうです。知識の習得や学習においては、そこにたどり着く際に適度な摩擦や不確実性がある方が理解と想像を深めます。ときには簡単に答えが見つからない課題に取り組むことが、興味のフックや探究心を育んでくれます。これは「望ましい困難」と呼ばれ、少し苦労して学んだ方が深く理解し、忘れないという認知科学上の理論です。タブレット学習やAIを使ったスマートな学習を活用しつつも、義務教育の段階においては手書きや紙の辞書を引いてみる、自分で試行錯誤してみるといった取り組みが大切なのかもしれません。
 
2022年06月25日 12:38
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