【子育て】江戸時代の子育て
今回は日本人の教養について書かれた『独学の精神』(ちくま新書)著・前田英樹から、江戸時代の教育と子育てについてご紹介します。日本で一般向けの教育書、子育て本が出回ったのは17世紀後半あたり、つまり江戸時代から既に民間向けの育児関連書籍が読まれていたことになります。同時期の世界に目を向けると、革命や植民地争奪戦争といった覇権争いばかりに注目が集まっており、政治論や外交論、戦争論といったテーマでの書籍が圧倒的に多数を占めています。学校制度や受験制度がない中での子育て本ということなので、そのテーマは主に「躾」(しつけ)に関するものが多く、武家の師範や保護者向けの内容となっています。
江戸時代の商家向けの心得を書いた『世わたり草』には、「生まれた子どもは皆素直であるが、教えを施さなければわがままに曲がりくねるため、子どもの成長は家人が責任を持って善悪を示すべし」と書いています。また、江戸時代前期の中江藤樹は『翁問答』の中で「孝」こそが身に付けるべき最高の徳であると述べ、「孝は身分に関係なく万人が積むべき行いであり、徳と才を身につけてこそやがて身を立てることができる」と述べています。そして、そのために学問があると述べています。武家、商家、農家向けでそれぞれ主張の強弱は異なりますが、全てに一貫しているのは躾を重んじている点です。あいさつ、振る舞いの他、善行を奨励し、悪行を制す教えが強調されています。これらの教えを基に、家業を継ぐであろう男の子に対する教育は主に父親、外に嫁ぐであろう女の子の教育は母親が担っていたといいます。ここでいう教育は勉強のことではなく、躾につながる行いや生き方についての教えとなります。学問的な教えは武家の藩校、民間の寺子屋、師範の開く習い事で修めたようで、これら多層的な教育機関の存在が、江戸時代の庶民の教養が世界的に高かった事に貢献していると考えられています。
このように、江戸時代の子育てによって教養ある庶民層を誇った日本も、幕末にかけ激動の時代に突入していきます。それでも、江戸時代からの教育の伝統は息づいていたようで、明治時代に日本を旅行したイザベラ・バードは『新訳・日本奥地紀行』の中で「日本にはうるさい子どもや聞き分けのない子どもを見ることがないし、イギリスの母親のように子どもをおだてたり脅したりして無理やり服従させるような躾を見かけない。そんな日本の子どもが大好きだ」と記しています。学校制度が普及してからも、日本人の教育のベースは江戸時代に築き上げられたものが大きく役立っていたと考えられます。良い点すべてを真似ることはできませんが、江戸の子育ての美点を現代生活に応用できるところは応用していきましょう。
2022年01月27日 14:32