[依存症対策] irresistible
塾の面談時の悩みで多いのが、子どもがスマホばかり見ている、ゲームばかりしている、勉強しないといった悩みです。ゲームの媒体や機種は時代ごとに変わりこそするものの、こうした悩みは毎年必ずあります。むしろ、ある方が普通と言ってもいいぐらいです。これらの悩みを解消するために塾に通わせる、自習室に来させるという動きにつながるのもまた事実なので、塾の果たす場所的役割の一つであると思います。本作品「僕らはそれに抵抗できない」は行動経済学者による依存症の仕組みとその脱却方法を探っています。
依存症が病気なのか、それとも社会現象の一つなのかは専門家の間でも判断が分かれるそうです。治療法に関しても、投薬治療のほか、薬を使用しないカウンセリング、置き換え療法、行動療法、合宿プログラムなどアプローチ方法は何種類かあります。本作品で紹介される事例では、重度のゲーム依存や薬物依存が取り上げられていますが、行動経済学的、心理学的アプローチによる効果的な脱却方法が記されています。例えば、スマホやタブレットを視聴しすぎてしまうという問題に対しては、2つのアプローチ方法が紹介されています。一つは、「行動アーキテクチャー」という方法で、生活環境や生活場面から対象物を物理的に遠ざけるという手法です。人間の脳はとても優秀で、スマホやタブレットが視界に入る場所にあるだけで、そちらに脳のメモリが割かれていきます。そして、ふと集中力が途切れた瞬間には手に取っているという行動を繰り返してしまいます。ですので、リビングや子どものデスクの上からはスマホやタブレットを視界外に置くことが有効です。そして、スマホやタブレットをいちいち取り出す、探すといった障壁を意図的に設けることも有効です。
もう一つのアプローチは「習慣の置き換え」です。人間の行動が習慣化してしまっている場合、そこには合図、行動、報酬という3つの場面があります。この内、依存してしまっている「行動」(スマホ、ゲーム)の部分を別の動作に置き換えるのです。例えば、夕食の後にいつもスマホやゲームをしているのであれば、食後が合図となっているので、食後の後にペットの散歩や宿題時間、部屋の掃除といった「行動」を組み入れます。急に置き換えることが難しければ、一部割り込ませるだけでも構いません。上手くいけば、食後はまず宿題やワークをやるものだと習慣化される可能性があります。
いずれの方法にしても、無理やり何かを辞めさせたり、強制的な手段ではない点に着目して頂きたいと思います。依存してしまう脳や行動から働きかけなければ、人間はすぐに抜け道を探したり別の手段に訴えるようになるだけです。脳の傾向を上手く活用する、生活動線から依存対象物をフェイドアウトさせるなどの手段が好ましくない習慣からの脱却方法となり得ます。
2022年06月03日 15:23