[4000週間] 生産性の罠
タイトルに記した4000週間とは、人間が80歳まで生きた時の期間を表しています。120歳まで生きたとして6400週間です。今の自分の年齢とこの期間を見比べると、意外に残りの時間が限られていることに気づきます。「限りある時間の使い方」(オリバー・バークマン著)は、よくある生産性アップや効率化、デジタルタスキングの盲点を指摘し、新しい角度からの時間術を提案しています。
現代を生きる私たちの社会では、より発展すること、変革すること、前進することが当然のようになっています。ほめる教育指導...、360度の人事評価...、コーチング...、セラピー...といった制度や技術も現代になって隆盛しています。さらにはライフコーチ、ライフスタイルコンサルタント、セラピストとキリがありません。コーチングにしろセミナーにしろ、その種類だけ生き方が多様であっていいということの表れではないでしょうか。誰にも叩かれない正しい生き方、働き方なんてないんだと気づかされます。本作品では、内面にフォーカスし過ぎる現代人に警鐘を鳴らし、まずは社会とのつながりの中の自分−家族の中の自分、友人にとっての自分、コミュニティの中での自分−にまず目を向けてみよと説きます。時間をコスパ化するのではなく、有限の時間をまず受け入れるのです。有意義に時間を使えたと感じる時間は、コスパで捻出したわずかな時間ではなく、友人や家族のために使った時間、自分の好きなことに費やした時間であると感じるかもしれません。
本作品の後半では、何もしない本当の余暇と、平凡な趣味を持つことを勧めています。初めから短いと決まっている人生だからこそ、慌ただしく過ごす週末ではなく、ただ休むための余暇を味わう。将来のためになるからではなく、ただ好きというだけで行う趣味を持つ。その時間はそれしかしないと決めることで諦めとゆとりが生まれ、忙しさの悪循環を断ち切ることができるのです。平成までのひたすら効率を追求する時間術・ビジネススキル系の本とは違った視点を取り入れるのにオススメの一冊です。
2022年08月27日 17:06