[東京の子]働き方改革の未来小説

舞台は東京オリンピック後の日本。有明に建設された新しい形の大学「東京デュアル」では約4万人の学生が、提携先の企業で働きながら学んでいます。衣食住は大学施設内で格安に提供され、奨学金も提携先企業で働くことにより無利子で貸与。この学びと労働を一体化した新しい取り組みの近未来型大学で、ある日一人のベトナム人留学生が姿を消すー。その学生の捜索を依頼されたのが、アンダーグラウンドで生計を立て、過去の自分を捨てた主人公。街中をアクロバティックに動き回るパルクールを得意とし、東京の街を自在に飛び回ります。大学・企業の運営と国策、学びと労働の裏に見え隠れする社会問題に主人公と共に切り込んでいくスリル満点のストーリーです。
パルクールを特技とする主人公の活躍が魅力的なのはもちろん、真相に近づいていく展開のスピード感も読者をひきつけます。オリンピック後の跡地の高層マンション郡やコロナ禍で人出の減った新宿など、現代とリンクする場面描写も親近感をわかせ、よく描かれていると感心します。日本に浸透しつつある技能実習制度、フリーランス、複業といった働き方の正の面、負の面に迫っていくことができます。複雑化する社会で生きる、自由に働くとはどういうことかを考えさせられます。未来を描いているとはいえ、すでにニュースで報道されているような外国人技能実習制度、インターンシップ、フリーランスという言葉と深く関係している作品であり、これから社会に出る高校生・大学生に大いに役立つ内容となっています。
2022年10月01日 16:17